日本の食卓を揺るがすコメ不足:輸入要請の裏で進む矛盾と構造的な問題

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「日本人が食べられるようにすべき」。SNSでこんな声が広がったのは、2025年3月、日本政府が中国に精米の輸入をお願いしたというニュースがきっかけでした。長引くお米不足と値段の上昇に困っている消費者をよそに、なぜ政府は輸入に頼るのでしょうか。そして、国内のお米農家は本当に豊かになっているのでしょうか。このニュースの裏には、日本の農業政策が抱える深い問題が隠れています。

繰り返される「生産調整」:形を変えた減反政策が招いたコメ不足と高騰

日本の農業政策は、長年、お米の価格安定と国内生産の維持を目指してきました。でも実際は、需要と供給のバランスを考えない、時代に合わない政策が繰り返されてきたと言わざるを得ません。

かつて、お米の作りすぎを抑えるために始まった減反政策(生産調整)は、名前を変え、形を変えながら今も続いています。「水田活用の直接支払交付金」という制度がその代表例です。これは、田んぼを有効に使うという名目で、お米の生産量を減らし、他の作物への切り替えを促すためのお金を農家に支払う制度です。

具体的には、収益の高い作物や麦・大豆などの戦略作物、加工用のお米、米粉用のお米、家畜の餌用のお米など、食用のお米以外の作物や用途への転換にお金が支払われます。

これは、昔の減反政策のようにお米の生産量を直接制限するものではありませんが、結果として、長い間お米の生産を抑え続け、今のコメ不足を深刻にしている原因の一つになっています。お米の需要が減っているとはいえ、生産量を抑え続けた結果、いざ需要が増えても十分な量を用意できなくなっているのです。

さらに、肥料や燃料の値上がり、後を継ぐ人の不足といった構造的な問題も、お米の生産コストを上げ、価格高騰に拍車をかけています。消費者が高い値段でしか国産米を買えなくなっている一方で、その恩恵が作る人たちにきちんと届いているとは言い難い状況があります。

矛盾する政策:輸出と援助の裏で国民生活は逼迫

国内でお米不足と値上がりが深刻になる中、日本政府は海外へのお米輸出や食料支援を続けています。もちろん、国際的な役割を果たすことは大切ですが、自分の国の人が安定して日本のお米を食べられない状況で、海外に目を向けるのは本末転倒ではないでしょうか。

農林水産省のデータによると、日本は年間数十万トン規模のお米を輸出しており、その額は数百億円にのぼります。また、発展途上国への食料援助も積極的に行っています。これらの活動自体を否定するわけではありませんが、国内のお米不足という現実を考えると、その優先順位に疑問を感じずにはいられません。

SNSで「日本人が食べられるようにすべき」という声が上がるのは、こうした矛盾に対する国民の素直な気持ちの表れでしょう。

生産者を苦しめる構造:JAと族議員の影

お米の値上がりは、一部の農家には良いことかもしれませんが、多くの小さな農家や高齢の農家にとっては、まだまだ厳しい状況が続いています。その背景には、日本の農業界に深く根を下ろすJA(全国農業協同組合中央会)や、特定の利益団体と結びついた族議員の存在があります。

JAは、農家への指導や資材の販売、農産物の集荷・販売など、幅広い事業を手がけていますが、その大きな組織ゆえの問題点も指摘されています。例えば、資材の価格が高いままだったり、販売ルートが硬直化していたりすることで、農家の収入を圧迫しているという声も聞かれます。

また、族議員と呼ばれる国会議員たちは、特定の業界団体の意向を強く反映した政策を進める傾向があります。農業分野でも、JAなどの影響を受けた議員たちが、時代に合わない政策を維持したり、改革を妨げたりしている可能性は否定できません。

2009年以降、農水省からJA関連団体に天下りした職員は28人に上るとされています。これにより、農水省とJAの間に強い癒着関係が形成されていると指摘されています。

こうした構造的な問題が、お米の生産現場の効率化や合理化を妨げ、結果として消費者が高いお米を買わざるを得ない状況を生み出していると言えるでしょう。そして、お米を作らないことへの補助金という名の生産調整は、需要と供給のバランスをさらに崩している可能性すらあります。

今こそ求められる抜本的な改革

今回のお米不足と輸入要請は、日本の農業政策が限界に達していることを改めて示したと言えます。もはや、過去の成功体験や既得権益にしがみついている余裕はありません。

政府は、形を変えた減反政策とも言える「水田活用の直接支払交付金」のような制度が、現在の需要と供給のバランスに与える影響を見直すべきです。本当に国民の食卓を守るためには、需要に見合った生産体制を作ることこそが大切ではないでしょうか。また、生産者のコスト削減や収入アップにつながるような、より効率的で続けられる農業への転換を支援する必要があります。

JAも、その組織運営や事業内容を根本から見直し、本当に農家のための組織へと生まれ変わるべきです。そして、国民の食料安全保障を第一に考え、誰にでも分かりやすい政策決定の過程を確立することが求められます。

お米は、日本人にとって単なる食べ物以上の意味を持ちます。それは、日本の文化であり、風景であり、そして何よりも国民の生活を支える基盤です。今こそ、日本の農業政策を根本から見直し、国民が安心しておいしい日本のお米を食べられる未来を取り戻すべき時なのです。